2016/07/26

■走り出す句集 樋口由紀子『ゆうるりと』

「も」は俳句ではたいてい失敗するのですが、

なわとびの輪の中からも発破音  樋口由紀子

この「も」は愉しい「も」。そこいらじゅうで発破音がしていそうです。

この句のある樋口由紀子第1句集『ゆうるりと』は1991年発行。第2句集『容顔』(1999年)の8年前。

人差し指が輝くときに旅に出る  同

足裏はいくら拭いても花曇り  同

干したままのハンカチがある私の胃  同

むらさきの廊下がつづく昼の喉  同

このあたり、世界の眺望・世界の感触と身体感覚が交接する妙味。

で、

ピストルが鳴らないうちに走り出す  同

こういう人、大好き。

待っていることはない、走り出せばいいのです。

(もっとも、走り出したはいいが、すぐに止まっちゃう人も多いのですが)

で、四方八方、発破音がしたりしてね。


この句集、『ゆうるりと』と言いつつ、とりあえず走るよ、いろんなことは走りながら考えるし、ってな感じです。「樋口さん! これ、ダメでしょ?」てな句もあるし、ちょっと私の趣味嗜好がうけつけないたぐいの恋情・情念の句も少なくないのですが、きほん、走ってくれているので気持ちがいいのですよ。

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