2017/12/21

■冒頭集:サマセット

 ウィーリー・チャンドランはある日父親にこう尋ねた。「僕のミドル・ネームは、なんでサマセットっていうの? その名前を知ったとたん、学校のみんながからかうんだ」
 父親は難しい顔で答えた。「偉大なイギリスの作家の名前から取ったんだ。家に何冊か本があるだろう」
「でも、読んだことはないよ。そんなに好きな作家だったの?」
「どうかな。わけを話すから、自分で考えなさい」
 それからウィーリー・チャンドランの父親は物語を語りはじめた。そして長きにわたって語りつづけた。ウィリーが成長するにつれ、物語は形を変えた。多くのことがつけ加えられ、ウィリーがインドを離れてイギリスに行くころまでには、物語はおおよそ次のようなものとなっていた。
V.S.ナイポール『ある放浪者の半生』2001(斎藤兆史訳/岩波書店/2002年)


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