2015/09/11

■地図と孔雀

パリの地図ひろげておとなしい孔雀  佐藤りえ

意味が確定しない句(悪いことではありません。為念)。地図をひろげたのが誰か(何か)で句意が違ってきます。

パリの地図ひろげて//おとなしい孔雀 ……切れを読んで、誰かが地図をひろげた、と読む。

私はそうではなく、孔雀が「パリの地図」をひろげたと読みました(羽をひろげると、それがパリの地図)。

前者だとパリの動物園か何かの一場面。穏当な句です。後者だと、かなりマボロシ的・前衛的(一種の見立て、伝統に属する見立ての技法ではあるのですが)。

後者のほうが、イメージが豊かです。前者だと冊子・紙の地図、こぢんまりまとまります。後者だと、孔雀の羽程度には大きく、きらびやか。

後者の読みを採るもうひとつの理由は、この句が「怪雨(ファフロツキーズ)」という、たぶんに物語的(あるいは奇譚めく)タイトルの20句(『俳句新空間』第4号/2015年8月20日所収)のうちの一句であること。

作品中の、

人工を恥ぢて人工知能泣く  同

夏痩せて肘からのぞくベアリング  同

といったSF風味、それも20世紀中葉のSF風味を備えた句と併せて読むと、この孔雀もパリも、いまのものではなく、50年か100年か前の孔雀とパリのように思えてきます。

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