2014/08/18

■気ままに飛び石を踏んでいくように句を取り上げますからね、社長~〔社長って誰だ?〕:『川柳ねじまき #1』を読む・その2

『川柳ねじまき #1』(2014年7月20日、発行人なかはられいこ、A5判、本文42頁)から拾い読み。第2弾です。



図書館は無料で息を引き取ります  丸山進

「本を引き取る」と「息を引き取る」。人ン家の、あるいは公民館かどこかの棚の置き物の位置をこっそり動かすような、ことばへのイタズラは、川柳の本分でもあるのでしょうか。俳句は、まさしくそうなのだけれど。ただ、それによって及ぼされる言語的効果はやや違うようです(川柳は現実へのシニシズム、俳句ではしばしばが現実がすっぽりと剝落し、言語へのシニシズムの様相を帯びる)。


わたしたち海と秋とが欠けている  瀧村小奈生

海と秋を欠いているのはごく一般的な現実。海と秋を携えているという把握は虚構的。希求という点では共通だが、現実へと身体を向けるほうがより切迫する。「秋」は絶妙。ほかの三つでは、隠喩的なほのめかしが強く出すぎちゃったり、部品的な不具合が起きる。春は甘すぎるし、夏は海と近すぎるし、冬は表明っぽくなる。


眼裏といういちばん遠いところ  八上桐子

説得性が高い。ポピュラリティと(陳腐でない)ポエジーの両立ということで、このあたりが川柳の水平的広がり(気取って言ってますがつまり、現代川柳が先鋭化していく一方で、広く読者を獲得すること)の可能性かもしれません。《手首から先は鷗になりたがる》《くちびるを読みあっている魚と魚》《そうか川もしずかな獣だったのか》なども同様。

ブレイクスルーとは別に、民生への技術応用も重要。というとイヤな言い方に聞こえるかもしれませんが、ここ、ほんとだいじ。

≫樋口由紀子・金曜日の川柳
http://hw02.blogspot.jp/2014/08/blog-post_15.html


むかしならたぶんここらで髪を切る  米山明日歌

「四国あたりが」30句には「わたし」と(凝った)喩えが多い。これは『ねじまき #1』、あるいは現代川柳の特徴のひとつかもしれません。どちらの要素も、過剰に、かつ競い合うようにジャンル全体にひしめくようになると、息苦しくもなる。その点、掲句は、すらっとした立ち姿で、なおかつ不思議が残る句。


ややこしい話のあとに出るもずく  青砥和子

俳句的と言うと叱られるでしょうか。こういう俳句、好きなんですよね。鋳型といえば鋳型で、私も《猪鍋のまえに複利の話する》などと作って楽しんだ。これがヤリスギなのに対して、この句の「もずく」はまさにお口直し的に美味でオツ。


自分から燃えだす前の発電所  ながたまみ

鮮烈。《yes!とかgo!とか見える顕微鏡》は顕微鏡そのものではなく覗いて見えたものが、と解して、ちょっと心浮き立つ。この2句が突出してお気に入り。全体に理屈っぽい句(冒頭の《目をそらすときだけ開く窓がある》など)も多く、そちらは私にはピンと来ませんでした(もっともこれは先に書いたポピュラリティにつながる説得性と紙一重。単なる好みの問題かもしれません)。


フランスの普通の人のふくらはぎ  二村鉄子

脱力と呼んでいいのだろう(私はこういうのを脱力な句と呼んでいる。脱臼な句も世の中にはあるが、それはまた別の話)。だからどうした的な句に滋味がある。ただし、これは悪食かもしれず(といっても「美味礼賛」的なオーソドキシー志向はまっぴらごめんなので、これで良し)。ほかに《○○の話に○が出てこない》《仮の名を亀と名付けて裏返す》などもお気に入り。


ペンギンのような男で拒めない  魚澄秋来

のっぴきならない感が、理路と外れたところで出現する句はやはりおもしろいわけで、《とても他人事とは思えない折り目》も、そう。一方、全体に掲句以外は、直線的な奇想(って妙な言い方)、理屈っぽさや言明が目立つ。

「言明」もまた、(俳句とは違う)川柳の特徴のひとつでしょう(集中では《黒ばかり着ている人を信じない》が典型でしょうか)。「何かを考えている」人の態度です。俳句は「何も考えていない」人、「この人は何を考えてるんだ?」な人の、いわば寝言のような句がよろしいので(私の趣味もたぶんに加味されての話です)、言明は俳句と相容れない。このあたりが川柳と俳句の大きな違いと、私は見ているのですが、どうなのでしょう。


体から出てくる船のようなもの  荻原裕幸

隠喩の象徴性の重さを避けるための直喩。詩性のテンションをやわらかくイナす効果もあります。《わたしよりふるい切手の糊の味》は切手の経年が味覚を通して「わたし」と比較される楽しさ、気分の確かさ。

祈るのか折れるのか未だ決まらない》《梅と海の間でなにか音がする》での「字」の注視。また、《サ行へとからだをゆるく傾ける》。事や物ではなく語へと傾(かぶ)く句もおもしろうございました。



つうわけで、気ままな散歩のように拾い読むのは楽しいです。日本一無責任な植木等のようなステップだったら、なおのこと。

(つづく)



『川柳ねじまき #1』は定価500円。
ウェブサイトはこちら≫http://nezimakiku.exblog.jp/22222520/
問い合わせ先もそちらに記載があります。

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